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2006年6月 8日 (木)

吉野と謡曲『二人静』

今回取り上げる謡曲『二人静』は、場所は吉野で、旧暦1月7日の出来事だ。少し時期はずれなのだが、関心を持ったので、この時期に敢えて、メモ的に取り上げてみた。

謡曲の内容は、現実に静御前が二人いるわけではなく、静御前の霊が菜摘女に乗り移った上に、魂だけが生体分離して、第三者には二人に見えるという怖いお話である。

よく巫女に過去の人物が乗り移って、変な声で、その人物の意思を伝える様子が、ドラマなどで表現されるが、霊感の強い人は現代でも感じ取るらしい。見えない世界が、現実の世界を支えていることは何とかわかるが、流風は、その方面には、とんと鈍いので、何も感じない。だが、その方が気楽で助かっている。

さて、この謡曲も、他の謡曲同様、よくあるタイプで、基本的には魂を鎮めるということが底辺にある。あらすじは次のようになっている。

一 吉野勝手明神の神職は、旧暦正月7日に神社にお供えする若菜摘みを女に命じました。その後、若菜摘みに行った女を呼び戻しに、下人を遣わす。

二 その頃、菜摘女が若菜を摘んでいると、一人の女が現われて、菜摘女には正体は明かさず、神社の人々に「自分の跡を、1日経をあげて回向して欲しい」と言伝を頼み、「もし信じてくれそうになく、疑う人があれば、菜摘女にとり憑いて名乗って説明する」と言い、消えうせる。

三 驚いた菜摘女は神社に帰り、事の次第を神職に告げるが、自分でも半信半疑で不思議だと言った瞬間、物に憑かれたようになり、驚いた神職が尋ねると、判官殿に仕えていた女だと答える。

四 それが静御前だとわかると、神職は舞を所望し、弔いを約束する。

五 昔の舞装束を取り出し、それをつけて菜摘女が舞い始めると、同じ装束の静御前が現われ、昔の思い出を語り~義経の吉野落ちの辛苦の様子や、頼朝に召されて舞を所望され、舞わされたことを語り~「しずやしず」の歌を謳って、女の影に寄り添う如く共に舞う。

六 やがて、回向を頼みつつ、消え去る。

義経と静御前の別れは有名だが、静御前が義経への愛を貫き通したことも悲しみを誘う。これくらい彼女に愛されれば、義経も本望だろう。でも引き裂かれた愛だから、想いはより深くなるのだろう。

静御前は、吉野で義経と別れて後、捕らえられて、北条時政に引き渡され、更に鎌倉に送られる。その後、京に帰されるが、消息は不明との事。彼女が、無事な人生を送れば、このような謡曲は作られなかったかもしれない。いや、案外生きていることも多いのだが、何とも言えない。

静御前にとっては、義経は初めてのいい男だったのだろう。それだけに想いも深かったようだ。謡曲にもあるように、頼朝の前で義経を慕う歌を歌い、頼朝を激怒させつつも、舞ったことは有名だ。義経との間に子供を身ごもって男子を産むが、殺される。それがますます彼女の悲哀さを増している。

折角いい話なのに、脱線的に付け加えると、義経は、現在の判断では、外見は実際、背が低くて不細工だったと伝えられている。醜男に美女の組み合わせだ。これは今でもよく見受けられる。現実に美男・美女の組み合わせは少ないのは、世の男にとって、若干少し安心な材料であるだろう。

*参考 静御前の歌 二首

          吉野山 峰の白雪 ふみわけて

                 入りにし人の あとぞこいしき

          しずやしず しずのおだまき くりかへし

                 昔を今に なすよしもがな

*追記

なお静御前は晩年、母の磯の禅師の故郷である現在の兵庫県淡路島志筑荘(しづきしょう)の里で暮らしたとも伝えられる。淡路文化史料館の濱岡きみ子氏によると、経過は次のようである。

頼朝の前で、舞を舞った静御前は、彼の不興を買いながらも、頼朝は彼の妻の北条政子と一条中納言能保(よしやす)の妻に、なだめられた。ちなみに能保の妻は頼朝の妹だ。その後、静御前は、剃髪し、再性尼(さいしょうに)と名を改め、亡き義経の供養を弔う。

能保(よしやす)の妻は、これに同情し、能保に進言する。彼が、かつて妻を娶る時、頼朝から贈られた領地に、志筑荘があった。そこで、静御前と、母の磯の禅師と一緒に暮らせるようにしたという。現在も、静の里公園として残っているそうだ。

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