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2006年11月 3日 (金)

『竹取物語』のテーマ~愛と不老不死

           逢ふことも 涙にうかぶ 我身には

              死なぬくすりも 何にかはせむ

                     (竹取物語、御門御製)

不老不死は、人類の歴史上、悩めるテーマかもしれない。長生きは、人生の成功といわれるが、それでも、人間の寿命はどんなに長生きしても、せいぜい100年程度だ。そんな時、不老不死の薬を差し上げると言ったら、人はどのように対応するだろうか。

その物語が、子供の頃、よく読んだ『竹取物語』である。当時は、かぐや姫の出す難問に、貴公子たちが右往左往する姿が奇異に感じられた印象が強かったが、作者の本当の意図は、別のところにあったのだと少し分かったのは、大人になってから。

さて、『竹取物語』に出てくる御門は、「愛は、不老不死の薬より大事だ」と言った。御門は、かぐや姫の容姿だけでなく、心から本当に好きだったんでしょう。何せ、文通が三年に及んだ交流があったのだから、余計に想いが募ったのかもしれない。それで、先に挙げた歌を詠んでいる。

かぐや姫も、単に美貌につられて言い寄る他の貴公子よりは、御門を可哀想に思ったらしく、次の歌を返している。

             今はとて 天の羽衣 きるおりぞ

                 君をあわれと 思ひいでける

                       (竹取物語、かぐや姫)

結局、かぐや姫は、連れ去られ、天の羽衣を着ることによって、人間世界のことは忘却の彼方へと旅立つ。御門は、かぐや姫との思い出は忘れがたく、天に一番近い山に、姫にもらった不老不死の薬を燃やしてしまう。それが「富士」山だ。

一般に、不老不死の薬をあげるから、私への愛は諦めてくれと言われたら、人はどのように反応するだろうか。確かに愛に燃え上がっている時は、愛をくれないなら、不老不死の薬など、どうでもいい、と思うだろう。その気持ちは美しい。

だが、少し冷静になれば、不老不死の薬を取っておけばよかったと後悔するかもしれない。人間とは、そういうものだろう。去れば、いつの間にか、忘れ去られる存在でもある。

その後の御門の行状はわからないので、何ともいえないが、時々想い出に浸るだけだろう。そして、新しい恋愛があったかもしれない。それでは、少し、ロマンがなさ過ぎるか。むしろ、それが現実だから、この物語に意味があるのかもしれない。御門のその後の行状を暗に批判したものとも捉えられる。

しかしながら、遺された者が、愛する亡き人を思い続けることは、生きるには負担になる。適度に忘れ去る方が、生きていくには楽かもしれない。生きることは楽しくもあり、辛いことである。いろんな思いをするなら、やっぱり、せいぜい100年くらいの寿命でいいのかも。

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