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2006年11月16日 (木)

ラブレターを落とした縁

昔は、女性が男性とのきっかけを作るために、嘘か本当かはわからないが、わざとハンカチを落としたという話がある。そういう話は、流風よりずっと上の年代に聞いたことはあるし、漫才のネタにもよくなっていた。

今回は、ハンカチじゃなくて、相手からのもらったラブレターを落としたばっかりに、妙なことから相手と結ばれた有名な例を取り上げてみよう。それは、『平家物語』に出てくる、あの有名な通盛(みちもり)と小宰相局の関係である。

   我こひは ほそ谷川の まろ木ばし 

     ふみかえされて ぬるゝ袖かな

                 (平 通盛)

平 通盛は、刑部御憲方の娘で、当時、宮中一の絶世の美人といわれた小宰相に、一目惚れし、三年も文を出し続けたという。現在では、ストーカーじゃないかと思われることも、当時では当たり前。

しかし、小宰相はいつも、つれなくしていた。それで、さすがの彼も、これを限りと最後の文を家臣に託す。家臣は小宰相の侍女には渡せなかったが、帰りに小宰相の車に出会い、機転を利かせて、車に投げ込む。こういう機転の利く部下を持つとうれしいね。

小宰相は文を見つけたが、捨てるわけにもいかないので、文を持ったまま御所に出かけ、上西門院(後白河院の同母姉)の前で、その手紙を落としてしまう。女院は、これを見て、誰の文か皆に尋ねるが、小宰相だけが顔を赤らめて返事をしなかった。

あれ、小宰相も気にしていたの。な~んだ、そういうことだったのか。男でも、女でも、気のある相手のことには、初心な間は、顔が赤くなるようだ。

それでも、落とした手紙をまだ女院に見つかったのは、まだいい方だ。流風なんて、若い頃、同僚に見つかり、回し読みされて恥ずかしい目にあったことがある。ラブレターの扱いは慎重に。いつもいいことばかりとは言えない。

さて、それで、女院は、手紙を開けると、良い香りがして、会ってくれないことの恨む歌が書かれてあった。それが「我こひは」ではじまる歌だ。

女院は、はは~んと察して、通盛が小宰相にぞっこんなのは知っていたので、彼女に、「この手紙は恨み言よ。いつまでも無碍に断っていたら、小野小町のようになってしまうわよ。声がかかるうちが花」、とかなんとか言って、諭して、手紙に対して、自分で返事を書かれた。それが次の歌だ。

   たゞたのめ ほそ谷川の まろ木ばし 

      ふみかえしては おちざらめやは

良かったね。これで通盛は小宰相を賜ったわけだ。手紙が落としたことから縁がつながった。小宰相も別に嫌いだったわけではなく、まだ若かったということでしょう。そういう場合は、やはり間に入る人があれば、つながりやすいということも言える。通盛29歳、小宰相19歳のこととある。彼らは悲劇の最後を遂げるが、このことは別の機会に触れたい。

でも、ラブレターを送っても、拒否されたケースは、この小宰相の話だけではなく、昔の物語でも多い。特に、あの美人の小野小町は、拒否のオン・パレードだったという。だが、彼女の晩年は寂しいものになっている。美しい女性よ、気をつけてたもれ。

(参考 -1)

この二人は、余程、愛し合っていたようで、山手の守備を命じられた通盛が、妻の小宰相局を陣所に呼んで語り合っていたという。それを弟の教盛にたしなめられている。これは『源平合戦図屏風』にも描かれている。

(参考-2)

 能には、二人の情愛と二人を引き裂いた戦いの非情さを描いた『通盛』がある。しかし、悲劇ではあるのだが、愛を貫いたさわやかさがあることも事実である。

(参考-3)

 『徳島の女人平家』の記事~小宰相の墓などについて
  http://www.es-academy.com/sanpo/sanpo2.html

(参考-4)

 『平家物語』において、その後の小宰相についての現代語訳
 http://www.city.kobe.jp/cityoffice/06/014/genpei/heike/heike07.html#15

(参考-5)

兵庫区にある願成寺の墓地には、平通盛と小宰相の塔がある。これは、小宰相の局の乳母、呉葉が住蓮上人の義理の妹だった関係で塔が建てられたと伝えられている。

なお願成寺は、地下鉄の湊川公園駅、または神戸電鉄の湊川駅から、北西に200mのところにある。

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