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2007年1月 5日 (金)

恋愛の十段階

ご存知、『カーマスートラ』は、男性諸氏なら、一度は関心を持たれた書であろう。若い人はどうだろう。そこに、恋愛の十段階が示されている。以下、未読の人たちのために、若干、流風的解釈を交えて、それを少し示しておこう。

まず第一段階 恋う人を見て嬉しいこと

確かに好きな人がいると、それだけで、わくわくして嬉しくなることは間違いない。好きになるのは、情が移った結果のこともあるが、度々瞬間的判断による場合もある。その判断基準は、どのように養われるのだろう。しかし、人は生まれつき、そのような資質を持っているようである。そして好きになるのに個人差がある。

第二段階 意の執着

特定の異性をより強く意識するようになる。何とか接触したいと悶々とする。そして一方的好意が生まれる。それは一種の本能であるのかもしれない。どのように、より分けて対象を好きになっているのかは謎である。

第三段階 恋人を得たいと意図すること

第二段階が進化すると、男は、どうかして自分のものにならないものかと妄想するようになる。女性の場合は色気が出てくる。急におしゃれに気を配ったり、化粧し始める。これは動物の世界と同じですな。

万葉集に次の歌がある。これは女性の歌。彼の手を取りたい気持ち、わかりますね。

      さ檜隈(ひのくま)   檜隈川の 瀬を早み

        君が手取らば 言寄せむかも

                         (巻七・一一〇九)

第四段階 不眠になる

心の中で、妄想が暴れだして、眠れなくなる。対象の異性とあーなって、こうなってという想像力が働く(笑)。その結果、眠れなくなる。そして、集中力散漫になる。大体、いろんな失敗をして、周囲が何かおかしいと感じ出す。

そういうと、柿本人麻呂も『万葉集』で、次のように詠んでいる。眠れぬ夜。そんな題で歌にもあったような。

      古(いにしへ)に ありけむ人も わがごとか

        妹(いも)に恋ひつつ 寝(い)ねかてずけむ

                           (巻四・四九七)

第五段階 痩せること

想いが募りすぎて、物が食べられなくなる。結果として、たびたび健康を害す場合が多い。周囲はいろいろ手を打つが効果なし。いわゆる、恋煩い。この病に薬は効かない。

「愛しているのに愛されないのは確かに辛いことではあるが、もはや愛していないのに、愛されているのに比べたら、もののかずではない」(クールトリーヌ「哲学」)

第六段階 他の対象に対して、無頓着になる

一人の異性以外、目に入らなくなる。恋は盲目。恋という暗黒の世界に迷い込む。世界は二人のためにあると思い始める。昔、そういう歌がありましたな。駆け落ちなんて行動も起こす。

万葉集に次の歌がある。あなたという人は二人といないと思い込んでいる様子がよくわかる。

             磯城島(しきしま)の  大和の国に 人二人

        ありとし思はば 何か嘆かむ

                                 (巻十三・三二四九)

第七段階 恥を忘れること

異性と一緒に、いられるなら、世間体など全く気にしなくなる。恥も外聞もなく、異性のためなら何でもしてしまう。世間が、どう噂しようと、相手のために尽くすことができるなら本望と考える。

福永武彦は、「愛することの少ない方が、常に愛している者の心を傷つけること、そこに愛の、謂わば中毒作用がある」(「愛の試み」)と記している。

第八段階 狂乱

環境条件が整わず、引き裂かれたりすると、錯乱する。全く正常な判断ができなくなる。

万葉集に、次の歌がある。引き裂かれた作者の執念が感じられる。

      君が行く 道の長てを 繰り畳ね

        焼きほろぼさむ 天の火もがも

                          (巻十五・三七二四)    

第九段階 失神

対象が、遠い世界に行ってしまう可能性を感じ取り、ショックを受けやすくなる心理状態になり、失神。

第十段階 死

恋人に絶望し、生きる望みを失い、死に至る。

さて、あなたは何段階?恋の病は怖いよ。ほどほどにと言いたいが、坂口安吾は、「恋愛論」で、次のように語っているそうだ。

「恋愛というものは常に一時の幻影で、必ず亡び、さめるものだ、ということを知っている大人の心は不幸なものだ」

そして、伊藤整は、下記の如く忠告している。「愛の実体を追求しすぎることは、ラッキョウの皮をむくようなもので、ムキ過ぎるとなくなってしまいます」(「女性に関する12章)」

う~ん、やはり恋愛を解明するのは難しい。やはり相性だろうね。そして相性は天の配剤。どうすることもできない。若い人も、機会をつくることは大事だけど、結果は覚悟して諦めて(笑)。

* 万葉集を除く、文学者の引用は、母の蔵書だった『愛の迷宮(文芸春秋編)』より。

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