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2007年11月18日 (日)

智と『老子』第六十五章の誤解釈

今回は、智と、『老子』第65章の解釈の誤りの影響を取り上げてみよう。まず、「智」は「知」と現在では、紛らわしいが、微妙に意味が異なる。「智」とは、「知」に「言葉」が加わったものとされており、さといとか、賢いという良い意味に理解されるが、実は、ずるいとか、はかりごとの意味も含んでいる。

だから、『老子』の六十五章(*注参照)を一面だけで理解しようとして、誤解を招いている例も少なくない。前にも、少し触れたが、日本人は、誤まって理解してきたと指摘できる。

例えば、あの文化功労者の諸橋轍次氏による『老子の講義』(大修館書店刊)の第六十五章の解釈を挙げると、次のようになっている。

「いにしえの真に道を修めた人は、政治をなす場合、人民を賢明にしようとはせず、むしろ反対に、人民を愚昧にしようとしたものである。人民の治めにくいのは、人民に知識が多いからである。従って、智を以て国を治めることは、かえって国家の害毒になり、これと反対に、智を以て国を治めぬことが、国家の幸福となるのである。

而して、常に、この両者の関係を知っている者が、これまた道の模範を知った人物である。この人間の道を知っている者を玄徳と称する。この玄徳は、深遠なものであって、一見、普通のものとは反対のように見えるが、長い目を以て見ていると、実は反対ではなくて、かえって、それが大いなる順道に至るのである」

この解釈を読まれて、果たして意味が、わかるだろうか。明らかに、この解釈は、どこか間違っていると考えられる。

誰が読んでも、後半はともかく、前半の部分の解釈が、おかしいことがわかる。なぜ、この高名な先生が、変な解釈をされたのか。結局、それは「智」の解釈を取り違えたのではなかろうか。

ところが、この解釈の一部だけが一人歩きし悪用され、官僚・政治家には、「大切なことは、一般国民には知らしめず」という根拠になっているような気がしてならない。大事なことは、国民に相談せず、国の上層部で決めればいい。そういう考えに至ったものと考えられる。国民に中途半端に知らせれば、政治は混乱すると彼らは理解しているのだ。

しかし、今般の汚職が示すように、利権がらみで、内々で物事を動かしていると、いろんな不正が起こってくる。また情報公開せず、国民に知らせることをしないと、国を誤まらせることになりかねない。そう考えると、この先生の解釈(彼の先人も含めて)が、国家を誤らせたと言えないこともない。今一度、『老子』第65章の真の意味の深さを改めて味わう必要を感じる。

*注 『老子』第65章 読み下し文

一般に、読み下されている代表例を挙げておく。但し、この読み下し文(訓読)が正しいとは必ずしも言えない。読み下し文は、日本人が漢文を理解する一つの方法として、編み出したが、正確な理解を妨げる場合もある。

(第65章 読み下し文)

 古の善く道を為(おさ)むる者は、以て民を明らかにするに非ず。将に以て之を愚にせんとするなり。民の治め難きは、其の智多きを以てなり。故に智を以て国を治むるは、国の賊なり。智を以て国を治めざるは、国の福なり。

 常にこの両者を知れば、亦楷式なり。能く楷式を知る、是を玄徳と謂ふ。玄徳は、深し、遠し。物と反すれども、すなわち大順に至る。

*注 『老子』第65章 原文

 古之善為道者 非以明民 将以愚之 民之難治 以其智多 

 故 以其治国 国之賊 不以智治国 国之福 

 知此両者亦稽式 常知稽式 是謂玄徳 玄徳深矣遠矣 

 与物返矣 然後乃至大順

*  参考

ちなみに、この解釈の適正なものは、拙ブログで、書籍の紹介もしている『老子(全)・自在に生きる81章』(王明著、地湧社刊)で、第六十五章の解釈を下記に転記しておく。最終部分は、やや意訳が強いが、流風も納得の無理のない解釈だ。

 「古のよく道(タオ)に通じていた為政者の治世は決して巧智や利得を主としたものではなく、多くの人々の根源である純真無垢を基礎にしたものであった。

この世が治めにくいのは、巧智や利得がはびこる時である。それゆえ、巧智や利権で国を治めようとする者は、国の賊となり、その反対の純真素朴を重視する者は、国の福となるのである。

この二種類の治世の優劣を真に理解している者だけが、正しい政治を行うこととなるのである。常に、この差を忘れずにいることを玄徳というのである。玄徳は、あくまで深遠であり、もし世界の人々が自国中心の考えを捨てれば、大いなる平和と調和の世が諸国に遍く訪れることとなるのである」

*参考 関連ブログ

拙ブログ「誤訳によって築かれた文化」(2005.9.11)

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