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2007年12月19日 (水)

男子厨房に入らず

大正生まれの父は、「男子厨房に入らず」の典型の人だった。だから、よく母がぼやいていた。この年代は、誰に聞いても、こうなのよね、と諦め顔だった。父がよく言っていたのは、男は、料理などをやると、器が小さくなる。そんなものは女に任せればいいのだと。

そのくせ、流風が料理をすると、本気か、からかいかわからないが、「お前は偉いなあ」と言っていた。何でも呑み込みの早い父は、料理の研究が足りない母にいらいらし、実際は、自分でやってみたかったに違いない。

だが、聞くところによると、父が料理をしたのは、母が私を身籠って実家に帰っている間さえも、止む無く一日だけ御飯を炊いただけだそうである(*注参照)。結局、後は近所の人にやってもらって、上げ膳据え膳だったらしい。そういう意味では、男子厨房に入らずを徹底していた。

その父が、亡くなる一年前くらいに、牛肉の佃煮が食べたいと言い始めた。昔食べた味を思い出したのだろう。百貨店やいろんな肉屋を探して、買って行ったが、ついに気に入る物がなかった。

そして、ついに父は決断した。厨房に入って、牛肉の佃煮を自ら作ることに。料理は実にシンプルだった。国内高級すき焼用和牛肉を買い求めさせ、生姜を炒め、肉を入れ、酒とみりんと砂糖と醤油で味付けするだけだった。

それを本当に満足そうに食べていたのは、今でも目に浮かぶ。それが文字通り、父の最初で、最後の料理になった。そして、不思議なことに、それ以後、牛肉の佃煮を食べたいとは言わなくなったのだった。

*注

当時、御飯を炊くと言っても、現在のように、電気釜があるわけではない。「おくどさん」に薪をくべて、釜で炊くのである。だから、会社から帰ってきて、御飯の準備をするとなると、大変なことなのだ。

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