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2008年3月26日 (水)

未だ見ぬ女性に恋をする

別に表題どおりに、流風が恋をしたわけではない。ただ、昔の人は、結構そういうことがあったようだ。直接、異性と顔を合わせる機会が少ないからだ。だから噂が噂を呼び、ある女性が男性間で話題に上る。女性は見えそうで見えないほど美しい。妄想が妄想を生み、理想化する。そうなると、一目会ってみたいと思うのは男の性であろう。

現代だと、気になる女性にふと視線をやって、仲間に、お前、あいつに関心があるのだろう、という指摘ですむが、当時は直接顔をあわせることはまずない。だから、未だ見ぬ女性に恋をすることになる。

それを言葉にすると、当然、仲間内で、評判になるわけで、結構、そういうことがきっかけで、結ばれることがあったようだ。まあ、結ばれて、期待はずれも多かったようだが、それはご愛嬌(笑)。一夫一婦制でない時代だから、いろいろあっただろうね。皆が皆、光源氏のように面倒見がよかったわけでもないだろうし。

さて、話題を本題に戻すと、摂津多田源氏の流れを汲む源三位頼政も、そういう話題を提供している。近衛天皇の頃、紫寝殿に、鵺(ぬえ)が飛び交い、皆、恐れをなしていた。そこで妖怪退治で有名だった頼政に、天皇より鵺退治の勅命が下された。鵺は実際見えていないのだが、心眼で観て、見事矢で打ち落としたという。

鵺というものが何であったかはわからない。トラツグミの鳴き声が不気味だったので、それを怖れたという話もある。人間、誰だって暗闇の音には敏感になる。それを皆が煽って、そういうものが存在すると思ったのかもしれない。頼政は鵺の鳴き声の正体を知っていたのかもしれない。音の方向に矢を射たのだろう。そう言ってしまえば、話は面白くなくなるが。

しかし、これには、天皇も大いに喜び、お召し物を下された。そして、それとは別に、天皇は、特別の褒美の計らいをされる。実は、噂で、頼政が、藤壺の菖蒲の前という女性が好きだということをご存知だった。菖蒲(アヤメ)というと、端午の節句には付き物です。密生した小さい花だけどいい匂いもする。菖蒲の前も、すらっとして健康的で、いい匂いのする雰囲気を持っていたのだろうか(*注)。

それにしても相当、噂が宮中で流布されていたということになる。まあ、皆、他愛のない噂話は大好きということ。当時、世情は落ち着いているとは言えなかったけれども、そういう話は、別問題。天皇としては、彼に彼女を妻に与えようとお思いになったが、単純にそれをやっては面白くない。ちょっと、からかって意地悪したくなり、彼女の影武者を多数揃えて、その中から、菖蒲の前を当てよ、と御命じになる。

そんなん見たこともないのに、所詮無理。困っている彼に、ある女官が援け舟を出して、歌を詠うように、誘導し、彼は、天皇から、からかわれた状況に応じた和歌を詠う。

  五月雨に 沢辺の眞薦 水越えて

         いずれあやめと 引きぞわづらふ

その内容に天皇が、彼が文武に通じていることに感心して、菖蒲の前の袖を引っ張って、自ら教え、彼女を頼政に賜ったという。昔の人は、恋をするのも大変だったようだ。しかし、このように文武に通じていたことが、彼の名前を高めることになった。いかに、当時の人が文武両道を重んじていたかがわかる逸話だ。

*注

端午の節句の菖蒲とアヤメとは、異なる。菖蒲湯に使う菖蒲には花がないが、アヤメは、きれいな花だ。でも、同じ文字だから、ややこしい。文中の表現は、本当は正しくはない。

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