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2010年6月14日 (月)

ただ酒呑み、笠家旧室という人

花菖蒲が満開だ。いい感じ。梅雨の時期のためか、やや涼しい。それでも、外から帰ってくると、冷たいものが美味しい。医師からは、冷たいものは控えなさいと忠告を受けるが、最初の一杯が美味しい。少しぐらいはいいだろう。

お酒も少し飲めば、酒は百薬の長だと思う。この時期は、少し冷で頂く。ただし、本格的に飲む人からすれば、飲んだ内には入らないだろう。

さて、酒呑みで有名な人は、いろいろいるが、今回は、笠家旧室を取り上げてみよう。彼は江戸中期の俳人だが、詳しくは知らない。体が大きく、異形の僧だったようだ。結構、奇行が多かったという。天才肌だったのかもしれない。俳号としては、活々坊、天狗坊、岳雨とか称している。

彼は落語にも、出てくる。それは『徳利妻』、別名、彼の俳号『活々坊』の場合もある。今回は、その話を備忘録的に。話は、活々坊は、酒を切らせたことがない酒好きということで登場。内田屋という酒屋の前を通ったが、我慢ならず、酒を一升五合を平らげる。

もちろん、お金は持っていないから、若衆に、こてんぱんにやられる。そこへ番頭が現れ、何ということをやるんだということで、逆に若い者たちを叱る。活々坊は、恐縮して、「叩かれたあとで花咲くなづなかな」と、一句を懐中の和紙に書いて、主人に渡してくれという。

主人は、その紙を見て、びっくり。「若い者が、とんだ失礼をしました。申し訳ありません」といい、更に、五合ほど振る舞ったという。一体、主人とどういう関係なのだろう。商売上、有力な顧客だったのだろうか。まっ、そういうことはなく、俳句を主人に教えていたのだろう。

彼は、いい気持ちで、歩いて行くと、今度は石屋の前を通ると、小僧が二升も入るかと思われる通い徳利を持ちだして、金槌で叩き割ろうとしている。彼は、それを止めさせ、理由を聞くと、「おかみさんの言いつけで、お歯黒壺にする」と言うので、「お歯黒壺なら、安い金子で買える。これらを壊すのは勿体ない」と言って、徳利の横に、「酒徳利かけて淋しや枇杷の花 旧室」と、一句書きつけた。

石屋の親方とは旧知の仲。ここも俳句を教えていたのかな。すぐに主人が出てきて、挨拶すると、また一升ほど頂く。句代が酒代になっている。更に気持よくなった旧室は、家に戻り、横になり、寝ると、夜中に女の声で、表を叩いている。戸をあけると、若い美しい女がいる。

そして言うには、「先程は有難うございました。お陰で命拾いしました」と。「はて、私には、全く覚えがないが」と言うと、その女が言うには、「私は、石屋の小僧に、口を砕かれようとしていた徳利でございます」と。

袖をまくると、二の腕に、先刻の俳句が記されていた。そして女が言うには、「恩返しとして、私を女房にしてください」と。これぞ、押しかけ女房。旧室、びっくりして、「女房にしてくれと。まあ、お前は徳利だから、おっと(夫)徳利を慕うのだろう」というオチ(*注)。

これだけ、ただ酒を許される人も珍しい。俳句の師匠と門人という関係なのだろうが、愛された師匠だったことが推定される。流風なんて、門人もいないし、せいぜい物産展で、試飲を勧められる程度だ(笑)。それも、少しでも飲めば、すぐ顔が赤くなるので、安易に受けとらないけれど。自宅で、花菖蒲を眺めながら、缶チューハイでも飲みますか。

*注   おっと徳利

徳利の蓋がちょこになっている物。

*追記

彼は、晩年、ある宴会の帰り、人が送るというのに、それを断り、その途中、足を踏み外して、川に落ち、亡くなったようだ。これは笑うに笑えない。彼の一生が、酔った人生だったのかもしれない。ただ、彼に学んだ弟子が多いのには、それなりの魅力があったのだろう。

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