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2010年12月14日 (火)

自ら身を焼いたウサギ

     身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ

いよいよ、年末も押し迫ってきた。お歳暮、あるいは年賀状の準備、お節の販売など、師走らしく世間は騒がしくなっている。そして、来年は、卯年だ。今回は、ウサギの話を取り上げよう。但し、以下に示すことは多くの作家や文学者が取り上げ、人口に膾炙しているので、目新しいことではない。

それは、『今昔物語集』の巻第五の第十三にあるものだ。題は、「三つの獣、菩薩の道を行じ、兎身を焼ける語」だ。中身は仏教説話。天竺すなわちインドの話として収録されている。この話は、童話などで、子ども時代に読んでもらった経験があると思うが、念のために記すと、大体、次のようになる。

昔、インドに、ウサギ、キツネ、サルの獣がいた。どういうわけか、彼らが信心を起こして、菩薩の道を実践修行した。これは例え話であるので、動物に魂があるかどうかの議論は、避けておく。

また菩薩というのは、六波羅蜜のことで、すなわち、布施・忍辱・精進・禅定・般若の実践のことである。これらについての説明は長くなるので、ここでは省く(分からない方は、ネットで調べてみてください)。

そして、それぞれが、次のように思ったという。「我等前世に罪障深重にして賤しき獣と生まれたり。此れ前世に生有る者を哀れまず、財物を惜しみて人に与えず。かくのごとくの罪深くして地獄に堕ちて、苦を久しく受けて残りの報にかく生まれたるなり。されば、このたび、この身を捨てむ」

すなわち、畜生に生まれたのは、前世の行いが悪かったからだと悟ったのだ。流風も、子どもの頃、祖母や母に、そのことは、よく言われたものだ。悪いことをすれば、来世には、人間として生まれてこないかもしれないが、それでいいのかと。来世のことなど誰も見ていないのだから、わからないはずだけれど、子どもを諭す時には有効な言い方かもしれない。

来世、人間であるためには、現世で何をすればいいのか。彼らは考えた結果、次のように結論する。「年、我り老いたるをば祖(おや)の如くに敬い、年我より少し進みたるをば兄の如くにし、年我より少し劣りたるをば弟の如く哀れび、自らの事をば捨てて他の事を前にす」と。

長幼の序を以て、道徳心により、自らを捨て、他者に接するということ。自身の存在は他者に生かされているということ。そのような心を持ち続けると、その人の顔つきが良くなることは事実だ。回り回って、その行為は自分に返ってくることも確かだろう。説話とはいえ、人間社会の真実を突いている。彼らは、頭でまず、そのことを理解したということだろう。

そこで、帝釈天は、翁に化けて、彼らの本心が本当に、誠のものか試す。あ奴らは、哀れみの心が本当に、あるのか。そこで、老い疲れ、食べ物もない翁の私を、養ってくれと彼らに言う。試すというのは、確かに、有効なこと。心の底を露わにさせる効果がある。

それを聞いて、サルやキツネは、早速、自分たちの得意技を活かして、いろんなものを採ってきたり、取ってきたりして、翁を満腹にさせた。これに刺激されて、ウサギも、色々やってみるが、成果なく、皆に恥をかかされる。

そこで、彼らに火の準備をさせて、思いつめて、再度出かけたウサギは、帰ってきても獲物は何もない。そして、ウサギは次のように言う。「我れ食物を求めて持ち来たるに力無し。然れば、只、我が身を焼いて食らい給うべし」と。そう言って、火の中に飛び込み死ぬ。

その時、帝釈天が、元の姿で現れ、火に入ったウサギの姿をそのまま、月に移した。それは人々が絶えず仰ぎ見る月によって、人々が、その教えを忘れないようにしたという。この話は、子どもの頃、何となく読んで聞かされたという人も多いのではなかろうか。最近の子どもさんは知らないかな。

この話は何を語っているのだろうか。本当に生きるということはどういうことなのか。生かされているのなら、他者を生かす努力を惜しんではならない。また、人間、追いつめられた時、どうすべきなのか。すべてを捨てて、私心を捨てることによって、新しい展開が見えてくると言うことだろうか。そうすれば天は見放さないということだろうか。

人間社会は、理性で計算できないことが起こるから、面白いと言えば、そうだろう。果たして、あなたはウサギになれますか。来年2011年は、そういう覚悟を求められる年になるのだろうか。そこまではいかなくても、大胆な取捨選択を迫られる年になるかもしれない。説話は大人にも、いろいろ教えてくれる。

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