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2012年7月27日 (金)

業平の恋 その五

和歌のやり取りで、きっかけをつかんだ業平は、五条の后に仕えている高子のところに乗りこんでいく。それが可能だったのは、業平は、後宮への出入りはフリーパスであったから。ある意味、女性は、より取り見取り。

こういうところから、業平のプレイボーイぶりが発揮される。ついに正殿の西側にある高子の部屋にも押し掛ける。そして求婚し続ける。初めは、高子の方も、業平の悪い噂は聞いていたかもしれない。また、そんなには関心はなかった。

ところが、業平が押しかけ続けてくると、おぼこい高子は、美男子の業平の甘い言葉に、気持ちが高ぶるようになり、ついに恋愛関係になる(*注)。業平の方は、最初は軽い気持ちで、それほど強く高子のことを思わなかったのだが、逢えば逢うほど、真剣に深く愛するようになる。これは彼にとって、初めての経験だった。それほど、高子は、業平にとって新鮮だった。

ただ、業平と言えども、最初の頃は、逢引は、場所が場所だけに、正門から入れず、土塀の崩れたところから、人目を避けるように逢引を重ねていた。ところが、逢瀬を重ねるにつれて、業平は段々暴走する。高子の立場を無視するように、派手に大っぴらに求婚活動をするので、高子は、「あなたの身のためになりませんよ」と、たしなめるのだが、最早、業平の気持ちは、止められなかった。そして、次の様に詠う。

  思ふには 忍ぶることぞ 負けにける

   逢ふにしかへば さもあらばなれ

内容は、「あなたを恋い慕う気持ちには、耐え忍ぶ気持ちの方が負けてしまいました。あなたに逢えさえすれば、どんなになっても、後悔はしません」と。もちろん、業平も、こんなことを続ければ、身の破滅になるのも、なんとなく感じていた。この恋を諦めようと何度も苦悩する。お祓いまでもしている。そして、次の歌を詠う。

  恋せじと 御手洗河に せしみそぎ

   神はうけずも なりにけるかな

意味は、「もうこれからは、恋を決してしないと、御手洗河で、禊をしたのに、神は、この願いをお聞き届けにならなかった」と絶望的な心境になっている。それほどに、強く、高子を愛してしまったのだった。

*注

これには、別のエピソードがある。業平が何年も求婚し続けても、高子は、なかなかうんと言ってくれなかった。ついに勇んで、彼女を盗み出そうとする。ある夜、高子の盗み出しには成功するが、彼女の兄の基経や国経に見つけられて、連れ戻される。その時に、業平が詠んだのが、次の歌。

 白玉か なにぞ人の 問ひし時 

   露と答へて 消えなましものを

訳は、「高子が、(昨夜)白玉でしょうか、何でしょうかと尋ねた時、あれは露だと言って、一緒に消えてしまった方がよかったものを」という感じ。

これは、彼女を背負って、逃亡の折、彼女が、川のほとりの草の上の露を見て、尋ねていたことと、寝ずの番をしたのに、深夜の雷鳴の中、彼女が連れ去られたことが分らなかったことを歌に詠み込んだもの。

次回に続く。

*注記

この記事は、『伊勢物語』のいろんな内容を、組み合わせて、独断で解釈する場合があります。あくまでも一個人の想像だということをお断りしておきます。

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