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2012年7月17日 (火)

謡曲『小督』と、その教訓

昔から、身分の高い方も、美人には弱かったようだ。そういうことで、今回は謡曲『小督(こごう)』を取り上げてみる。この題材は、学生時代の『平家物語』にあったので、今更、くどくどと記すのも、どうかと思ったが、再確認の意味で、備忘録的に記しておこう。

まず高倉天皇の中宮徳子は、平清盛の娘である。清盛は、娘を中宮にすることで、外戚になり、権力をほしいままにする。ただ子供はなかなかできなかった。また、愛人、葵を失い、失意の天皇を慰めるため、中宮は、小督を送り込む。

しかしながら、小督には、ある人の恋人であった。ところが、ある人の妻は、清盛の娘であったという。そういうことを知っていて、中宮が、小督を送り込んだのなら、何たる皮肉。そして、高倉天皇は、絶世の美人の小督を大変気に入って、寵愛するから、ややこしくなる。

それで、小督が清盛の怒りに触れるというのだが、少し変。むしろ、天皇の世継ぎができないから、女人を自ら送り込んだわけで、天皇の寵愛を受けて、清盛が怒るというのは解せない。確かに小督は、範子内親王を生んでいるが、皇子を生んでいない。だから、中宮をないがしろにして、権勢をふるうということも考えにくい。

ただ、謡曲では、清盛の怒りを買うことを恐れて、小督は宮中から姿を消したことから始まる。高倉天皇は、彼女が去ったことが気になって、何もできない。そこで、仲国に勅命を出して探すよう命じる。

いつの時代も宮仕えは辛いものだ。トップの愛人がいなくなったので、仕事を適当にして、愛人を探し出せというのだから。こういうトップは長続きしないのも、いつの時代も変わらない。それでも、仲国は勅命ゆえ、手掛かりを探す。

そうすると、嵯峨野の片折り戸の家が怪しいとの情報を得て、更に十五夜の名月には、彼女が琴を奏でるだろうと予測し、上奏すると、帝は喜び、馬寮の御馬を貸し出すという厚遇。それほど期待が大きいというものだ。でも、仲国には、大変なプレッシャー。

そして、出掛けるのだが、なかなか見つからない。そして、やっとのことで、片折り戸の家から琴の音が。それは宿の主の要望で、小督が弾き始めたものだった。曲名は「想夫恋」。仲国、嬉しくなって、家を訪ねるが、小督は、宣旨であるのに、聞こうとしない。

仲国は、立場上、役目を果たすまでは帰れない。柴垣の下で、座り込み、待ち続ける。それを見かねた侍女のとりなしもあり、やっと心が落ち着いた小督は、仲国に会い、帝からの手紙を受け取る。そうすると、帝の深い愛を感じて、涙を流し、返事を書き、仲国に預ける。仲国は、やっと役割を果たし、心明るく、都へ帰るのであった。

以上が大体の筋。不明になった人を探すのは現代でも大変なこと。手掛かりを、噂と、その人の行動特性に求めた仲国は、正しかったのだろう。地を這う捜索を続けた結果、小督を見つけ、天皇の意思を伝えることができた。確かに、仲国は大した奴だろう。

このように、『小督』の逸話は、天皇と小督の愛の美談として伝えられるが、冷静に見ると、先に少し触れたが、愛人の失踪ごときで、仕事が手につかない未熟な高倉天皇ということになる。やはり政務を優先する気持ちが無ければ、為政者にはなれない。使われている者も堪らない。このようにして、政権は堕落していくのだ。仮に清盛が実権を握っていて、飾りものであったとしても、望ましいくない姿勢だろう。

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