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2012年12月21日 (金)

古美術と落語『初音の鼓』

昔、知り合いになった年輩の人は美術品収集家だったが、その人が言うには、「美術商は、いつもいいものを提供してくれるとは限らない。あまり価値のないものを高く売りつけてくることが多い。ところが、10回に1回くらいに本当に価値ある作品を持ち込んでくることがある。美術商との付き合いには捨て金が必要だ」と。

美術品の収集には全く興味もないし、そんな物を買う金もないが、今でも彼の語った言葉だけは記憶に残っている。これは多分、情報収集でも同じことが言えるのだろう。価値ある情報とは、そのようにして入手できるのだろう。

ところで、落語に、顧客の殿様を騙す出入りの道具屋の話がある。道具屋の吉兵衛は、庶民に人気のあった、あの赤井御門守に出入りしていた。ただ持ちこむものは、少し怪しい物。例えば、久米仙人の越中ふんどしとか、わけのわからないものばかりだった。

そして、今回は、珍物として、「初音の鼓」を持ち込む。そして、口上は「この鼓を叩きますと、傍らにいる者が、狐の鳴声を発するという、不思議な鼓です」と売り込む。試しに、赤井御門守がポンと叩くと、吉兵衛はコンと鳴く。

馬鹿らしいと思うのだが、そこは赤井御門守。「これは面白い鼓じゃ。いか程だ」。「はい、百両でございます」。「よしよし、それなら買い取らせる。後ほど参れ」。吉兵衛は、喜んで帰路につくのだが、ふと不安になる。

もし殿が家来衆を呼んで、鼓を鳴らしても、家来衆にシャレが分らなければ、事の次第がばれてしまう。そこで、家老の三太夫に頼んで、「一声鳴くごとに一両」という裏工作をして買収する。

そして、三太夫は、吉兵衛は赤井御門守の御前にまかり越し、殿様がポンと鼓を叩くと、三太夫はコンと鳴く。殿様は、これには面白がって、ポンポン、ポンポンと続けさまに叩くと、三太夫は必死になって、コンコン、コンコンと応じた。

これを見ていた殿様は、「これ、吉兵衛、このたびは、その方が叩いてみよ。そうすれば約束の金を下げ使わすぞ」と言う。そこで、止むなく、吉兵衛がポンと叩くと、殿様がコンと応じた。

そういうことで、殿様が、「それでは約束の金をつかわそう」。「ありがとうございます」と吉兵衛が得意になっていると、一両しかない。「恐れながら、お約束の代金は百両でございます。ここには一両しかございません」と吉兵衛が言うと、殿様は「いやいや、一両でよいのだわ。予と三太夫の鳴き料は差し引いてあるぞ」。

要するに殿様は、全てお見通しだったということ。うまく騙されたように演じていた。もちろん、三太夫から御注進があったことは確かだろう。それでも、吉兵衛を咎めてはいない。庶民のユーモアの分る殿様であった。赤井御門守のモデルが誰であったかははっきり分らないが、落語に度々登場する、この殿様は愛すべき人で庶民に人気があったことは確かだろう。このようなところに、情報が集まるのも一つの事実である。

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