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2013年5月 1日 (水)

膝枕と狂言『寝音曲』

多趣味の父は、謡曲も趣味の一つであった。確か、流風が、まだ小さい頃の話だが、時々、食後の夕暮れ時、突然、朗々と謡いあげるので、家族はびっくりしたことを記憶している。今から考えると、謡う時は、概して、機嫌がよい時が多かったようだ。ただ、流風が、大きくなってからは、父は、なぜか謡うことは止めた。理由は分らない。

さて、今回は、謡を題材にした狂言『寝音曲(ねおんぎょく)』を、備忘録的に取り上げる。海外の人に割と受ける一番という。内容は、例によって、他愛のない話だ。前夜、太郎冠者が、一杯入って機嫌よく、謡曲を謡っているのを、通りがかりの主人に聞かれてしまう(*注)。

そこで、主人は太郎冠者を呼び出し、「昨夜、謡をやっていたのは、お前かと」問うと、太郎冠者は、「あれは私ではありません」と言うが、子供の頃から声を聞かれているわけだから、誤魔化すことはできない。主人に「ここで謡え」と言われ、断ろうとするが聞き入れてくれない。

そこで、「私の謡いは、癖があり、酒が入らないと謡えません」と言い、これで主人は諦めるだろうと思ったが、あに図らんや、主人は、大盃で酒をふるまう。ところが、簡単には太郎冠者は謡わないので、主人はじれて、「さあ謡え、さあ謡え」と急かす。

太郎冠者は、「女の膝枕でないと謡えない」とほざく。それでも、主人は謡を聞きたいから、「自分の膝を枕にしてよい」と太郎に貸す。そこまで言われたら仕方ないと、頭を乗せて謡いだす。喜んだ主人は、今後は座ったまま謡えと言うと、そうすると声はかすれ、また横にするとよい声で謡いだす。

これを繰り返していると、一杯機嫌で、段々どちらが横にしているのか、座っているのか、訳が分からなくなり、終には、立って謡い舞い、「その声は、どこから出た」と追われ終幕、というものだ。

大体、横になって声を出すのは大変なこと。歌手が横になって歌っているのを見たことがないが、多分、発声はうまく行かないと思う。それは謡いでも同じだろう。演者は、相当の修業をしないと、この演目を演じられないかもしれない。

そういうと、謡が好きだった父は、時々、母の膝枕で、耳垢を取ってもらっていた。流風は、謡はしないけれど、誰かの膝枕で眠ってみたい(笑)。今日は、久しぶりに一杯やって、ごろ寝でもするか(苦笑)。

*注

ちなみに、太郎冠者が謡う演目は、流派により異なり、『海人(あま)』の玉の段だったり、『放下僧』の小歌だったりするようだ。

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