« 姫路ゆかたまつりの行方 | トップページ | TPPは農村を荒廃させる罠か »

2014年5月25日 (日)

左甚五郎と落語『三井の大黒』

最近まで、左甚五郎が、現在の兵庫県明石市の出身とは知らなかった。けれども、甚五郎を顕彰した催しはあまり聞かない。地元ではやっているのかもしれないが、県全体としては周知されていない思う。そこで、今回は左甚五郎を取り上げてみる。

左甚五郎と言えば、日光東照宮の眠り猫が有名だ。東京時代に行ったことがある。また上野寛永寺の昇り龍の彫刻でも知られる。このように東京での彫物師としての活躍が目立つため、生まれの地元の方では、あまり知られていないようだ。

彼は、今から約420年前の文禄3年に、明石郡和坂村(かにがさかむら)で生まれた。幼名は、伊丹刀禰松(とねまつ)という。両親は、訳あって、庄屋の伊藤家に仮住まいするが、やがて父親が亡くなり、この地を離れることになる。

そして、母親の縁で、飛騨国高山に身を寄せる。この辺からの話は、よく知られていることかもしれない。当時、彼は7歳。そこで、ある人物にめぐり会う。それが、当時、京都の禁裏大工として名人と言われた棟梁の遊左法橋与平次だ。そのめぐり会いについては、いろいろ話になっているが、多分、手先の器用な刀禰松の能力を見抜いたのだろう。栴檀は双葉より芳しということだ。

そういうことで、後に、京都の遊左家に弟子入りし修業する。呑込みの早い彼は、若くして若棟梁にまでなっている。それは遊左の見込んだ通りだった。そして20歳にして、「甚五郎利勝」の名を与えられる。更に、今は亡き父親の「伊丹左近尉正利」から「左」と、師匠の「遊左」の「左」を兼ねて、姓を左にしたと云う。

ところで、甚五郎をネタにした落語もある。ただ、落語で演じられるが、サゲもないことが多い。講談に近い。彼の名声ぶりを大袈裟に表現したものだ。以前に、落語『竹の水仙』でも取り上げたが、今回は『三井の大黒』を取り上げてみる。あらすじは次のようになっている。

三井家には、運慶の作と伝えられる先祖伝来の木彫りの恵比寿像があった。そして、これに「商いは、ぬれ手で泡の一つ神」(*注)という短冊が付いていた。三井家には、更に、これに大黒天を配して、一対の福の神にしようと思って、その彫刻を甚五郎に依頼する。甚五郎は、それを百両で引き受ける。

とりあえず、手つけとして三十両を渡したのだが、甚五郎はいっこうにかかろうとしない。彼は、それどころか、気が向かないので、ノミを手にするどころか、江戸見物に行ってしまう有様。ここら辺は、天才肌の人に共通することだ。

その途中で、以前にも拙ブログで取り上げた「竹の水仙」を藤沢の宿で彫り、その作品が毛利大膳太夫に買い上げられ、話題を振りまく。そうして江戸に着くと、名前を隠して、浅草の大工の棟梁政五郎の家に身を寄せる。甚五郎は、彫物師としての方が有名だが、本来は宮大工。

だが、彼は天才によく見受けられる風采など一切構わないタイプ。よって若い衆からは馬鹿にされる。そうこうするうちに年末になり、棟梁から、何かを作ってみたらと投げかけられ、そういうと三井家から頼みごとをされていたと思いだし、彫り始める。これが三井家で名作とされている大黒天。

三井家は彫りあがったと連絡を受け、残金七十両と、酒肴代十両を持って番頭がやってくる。そこで、例の恵比寿像の短冊に続けて、「守らせたまえ二つの神たち」とつける。それを見て、政五郎や、その弟子たちも今までの無礼を詫びる。ところが、甚五郎は、その金を全て政五郎に渡し、「私のことは内緒にしてくれ」と頼む。だが、かえって、このことが広く世に知られるようになり、より名声を高めることになったとさ。

甚五郎の金離れのよさに、江戸っ子は気に入ったのかもしれない。また世話になったことを忘れず、恩を返していく人柄も多くの人々から支持を集めた理由かもしれない。

*注

「商いは、濡れ手で泡の一つ神」というのは、本来は、「濡れ手で粟」と言うのをひっかけたものかも。濡れた手で粟を握ると、たくさん粟がついてくる。いわゆる商いで言えば、儲かって仕方ないという意。ところが、「商いは、濡れ手で泡」というのは、いくら努力しても利益が残らないという全く異なる意。ただ、こういう言葉は無い。落語用に創作された言葉。なお、一つ神は、「一掴み」と「一つ神」と兼ねたダジャレ。

*追記

なお甚五郎は、成功してからは、出生地の明石に対して、いろいろ影に日向に応援したようである。彼は、慶安四年に57歳で亡くなっている。また彼を有名にしたのは、講談や歌舞伎など芝居もので、それは亡くなってから約百年後のことであった。よって各種話には、間違いなく尾ひれが付いている。

|

« 姫路ゆかたまつりの行方 | トップページ | TPPは農村を荒廃させる罠か »

古典文学・演芸」カテゴリの記事