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2014年7月16日 (水)

二つの「横笛」のこと その二

時頼が、トレードオフ(あちら立てれば、こちら立たず)の状態になって、出家という決断をした。でも、彼は彼女に何も告げずに出家していた。おそらく、彼女に会えば、迷って決心が鈍ると思ったのかもしれない。

長らく音信不通の状態が続いていたので、横笛は、何かあったのではないかと懸念していた。しばらくして、風の噂で、彼が、どうも出家したと伝えられる。これを聞いて、彼女は、怒り、悲しみ、恨む。

なぜなら、彼女は捨てられたと感じたからだ。出家は、強い信念から出たこととは言え、一方的で、薄情すぎると思ったのだろう。この辺が、男女の思いの違い。横笛は、その理由を得心がいくまで、どうしても問いたくて、嵯峨の方に赴く。

往生院とは聞いてはいるものの、場所も不確か。それでも、行こうとする執心。女性を本気にさせてしまった時頼も罪深い。彼女は、尋ね尋ねて、やっと彼の読経の声がする寺に辿り着く。

そして、もう一度会いたいと伝えるが、時頼は心の迷いが生じては修行の妨げになるとして、決して会おうとしない。横笛は、涙を抑えながら、哀しく去っていくのだった。時頼の方はというと、場所を知られて、彼女が再度会いに来てはまずいと思い、嵯峨の院を去り、高野山に上り、清浄心院という所に入る。

後に、ある時、時頼は、横笛が剃髪したことを知り、次の歌を贈る。

 そるまでは うらみしかども あづさ弓

   まことの道に いるぞうれしき

(大意:出家するまでは、うまく行かない、この世を恨みましたが、あなたも仏道の道に入られたとかで、嬉しい)

これに対して、横笛は次のように返歌する。

 そるとても なにかうらみむ あづさ弓

   ひきとどむべき こころならねば

(大意:あなたが出家されたとて、どうして恨みましょうか。あなた様を出家から、ひき留めることは出来ないのですから、私も仏の道を選びました)

しかしながら、横笛は、この歌とは裏腹に、しばらくして、入水して亡くなる。女の業は強いと言うことか。歌を贈ったことが、却って彼女を追い詰めることになった時頼は、このことを伝え聞いて、悲しみを抑えて、ますます修行に励むのだった。

それを聞いて、勘当していた父親も、ついに彼を許す。彼は皆から尊敬される高野の聖になったと云う。ああ、無常。以上が、『平家物語』に伝えられる「横笛」の話だ。

次回に続く。

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