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2015年2月19日 (木)

狂言『濯ぎ川』~養子の悲哀

子どもの頃、近所に養子を迎えた家があった。近所では、いろいろ噂になり、おばさんたちの話題の中心に一時なっていて、子どもの耳にも聞こえていた。内容は、「あの大人しいご養子さんが、苛められているらしい。養子は可愛そうやな」という内容。子供心にも、養子って大変なんだなと思ったものだ。

さて、狂言にも、これにぴったりのものがある。但し、古典ではなく、新作(一応、狂言が古典演芸なのでカテゴリーは「古典文学・演芸」に含めておく)で、作者はフランスのお笑い劇を元に作ったらしい。それが『濯ぎ川(すすぎがわ)』。

毎日、嫁と姑に追い使われる養子の男。妻は口うるさいが、姑は、これに輪をかけたような口うるささ。朝から晩まで、養子の婿をこき使う。この日も、裏の川へ洗濯に行けと言いつけられて、たくさんの小袖の洗濯物を入れた袋を担いで川に急ぐ。冷たい水で、寒さに震えながら、洗濯をしている。

ところが、まだ、ろくろく時も経たぬうちに、妻がやってきて、蕎麦を打つための粉を挽くように命じる。婿は、そんなのは無理と口答えすると、妻は問答無用とばかり、早く洗濯を終え、粉を挽くよう言い渡し去る。

やれやれと思って、洗濯を再開させると、今度は姑がやってきて、風呂を沸かすための水を汲めと言いつける。夫が弁解すると、姑は、杖で打ち付けるので、渋々引き受ける。姑が行ってしまって、ほっとしていると、間もなく妻が現れ、未だ洗濯が終わらぬ夫を責める。

夫は、ついに我慢ならなくなり、一体全体、妻の用事と姑の用事と、どちらを優先するのかと口論になる。そこに姑が戻ってきて、二人して養子を責める。そんなことは無理だと感じた婿は、それなら「用事を忘れぬよう、紙に書きつけてくれ。それ以外の仕事はしない」と言いだす。

そうすると、嫁と姑は、朝から晩までの用事のことを次々と文にしたため、婿に渡す。婿は文に書いていないことはしなくてよいと、約束を取り付け、ほんのささやかな抵抗を試みる。そんな時、小袖を川に流したため、拾おうとした妻が川に落ち、溺れてしまう。姑は早く助けるように婿に言うが、婿は、紙に書いていない仕事はしないと抵抗し断る。

ついに姑は、今までのことを侘び助けるように懇願する。夫は杖を川の中に差し出して妻を助ける。ところが、妻は感謝するどころか、杖を振り上げて夫を追いまわし、終演。

現代でも、別に養子でなくても、ありそうな感じです(笑)。実際、嫁さんに、あれこれ頼まれて、なかなか手掛けないと、夫を詰る夫婦を見ることがあります。今も、全国のどこかで起っているかも。尤も、今は洗濯機もあるし、蛇口をひねれば水も出るから、させる仕事の内容は明らかに違うが。

最近は、妻からのパワハラを受けて、夫から訴えることも多いようです。当時は、訴えることもできず、ひたすら耐えるしかなかったから、今は好い時代なのかも。女性のみなさん、適切にブレーキとアクセルを踏むことで、夫を大切にしようね(笑)。

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