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2016年9月14日 (水)

中国という深み~戸部良一著 『日本陸軍と中国』を読む

日本と中国がいがみ合う原因はいろいろあるだろうが、やはり戦前の関東軍の暴走が中国に日本の悪い印象を与えていることは否定できない。しかしながら、関東軍の暴走以前に、その兆しがあったことを認めざるを得ない。

それを客観的に検証した書物に戸部良一著 『日本陸軍と中国~「支那通」にみる夢と蹉跌~』(ちくま学芸文庫)がある。帯には、「なぜ戦争を回避できなかったのか?いまこそ歴史の失敗に学ぶ」とある。もともとは、1999年12月に講談社から刊行されたものを文庫化したものらしい。そして、中国語に翻訳されてもいるという。

この本では、「支那」という言葉がたびたび出てくるが、著者は当時の雰囲気を出すため、そのように記しているようだ。父も言っていたが、中国人は、蔑視だと「支那人」と呼ばれるのを嫌うという。だが、「シナ人」という言葉は、もともとChinaから来ている。戦前は、「Chi」と「Shi」の使い方の混同がある。本来ローマ字読みすれば、「チナ」だが、それが「シナ」と呼んだ理由らしい。ただ、戦前、日本は中国、朝鮮に蔑視感を持っていたことは確かなようだ。

さて、日本は、明治維新以後、欧米列強の植民地政策に敏感に反応したことは以前にも記した。そのため中国の情報収集のスペシャリスト(支那通と言うらしい)を育成する必要があった。最初は、地勢、文化、人性などの調査であった。ところが時代が進むに従って役割が違ってくるようになる。それは諜報活動であったり、政治工作であったり、軍事工作であった。

支那通と言われる人々は、初め中国に共感、あるいは同志感で臨んでいたのに、いつの間にか、不信感につながっていく。それが積み重なり、やがて暴挙につながっていく。なぜ、そのようになったのか。その過程を探るのが本著の目的かもしれない。

読んでわかったことは、基本的に、彼らは日本的に中国を理解しようとしたことに無理があったということだろう。国という立場が異なれば、それが理解できたはずだが、彼らは4千年の歴史を誇る中国という深みに嵌ってしまったと捉えることができる。日本を統治するより複雑な歴史を歩んだ中国。

彼らは、易姓革命を繰り返してきたような国家。漢民族が権力を握った時代もあるが、異民族が権力を握った時代もある。そんな中で、巧みに生きてきた中華民族。中国には、「敵の敵は味方」という考え方があるように、その発想は縦横無尽だ。

そういうことを十分理解せず、彼らを利用しようと入り込んだ日本の支那通は、彼らに見事に翻弄されていく。すなわち、情報操作したつもりが逆に情報操作されたり、利用したつもりが逆に利用されていたということだ。

それに彼らは個別に活動して、ある地域には深く入り込んで詳しくても、中国全体の動きを見る大局観に欠けていた。いわゆる「虫の目」は持っていても、「鳥の目」思考が抜けていた。そこでは発想がどうしても狭くなる。思い込みも強くなる。

ところが、中国の各種組織は、それぞれの思惑で混沌としているのに、巧みに支那通に利用されながら、逆に反日に利用して、見事に国内統一の流れに持ち込んでいく。そんな中、支那通の思いは打ち砕かれ中国に悪意を持つようになる。その結果、戦争の泥沼に引きずり込まれる。

この本を読んで感じるのは、日本の思い込みが危機を招いたということだろう。「理解」というのは、難しく、立場が違えば、当然、その意見は異なる。それを無理やり統一させようとすると無理が来る。現代でも、「相互理解」という言葉がよく使われるが、「相互」の意味を案外理解していない。

それぞれの国家主義者や安保関係者、あるいは右翼と言われる人々は、相手国の一面しか捉えていないことが多い。相手国の事情を一面的に見て自分の立場で単純に攻撃している場合も多い。すなわち、「相互無理解」が相手国不信感を増殖させている。

お互いに理解することは無理でも、理解する努力は怠ってはいけないということだろう。果たして、現代の一般日本人も、どれほど中国を理解しているのだろうか。この書籍は、その理解の一つに役立つだろう。

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