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2017年7月25日 (火)

落語『素人鰻』について

夏の土用の丑に、夏痩せを防ぐ方法として、鰻の蒲焼を食するようになった。これは江戸中期以降からで歴史がある。以前にも取り上げた落語『素人鰻』を再度記す。というのは、調べてみると、過去に記したのは簡略版。覚えとして、もう少し詳しく記す。

明治維新になると、武家は失業。殿さまも同様だ。食い扶持を作るため、神田川の金次郎という有名な料亭で働いていた料理人に勧められて、鰻屋を開業。この辺が、武家の商法。修業もせず、いきなり開業はあり得ないと思うが、そこが殿様出身の悲しさ。

もちろん、これには訳がある。蒲焼の名人と言われた金次郎が来てくれるならと、乗り気になって、鰻屋を開業したのだ。ところが、この金次郎、酒癖が悪く、酔うと、すぐ喧嘩をおっぱじめるタイプ。

主人は、金次郎に禁酒の約束をさせて、雇い入れるが、開店祝いに主人の友人が祝い酒を持ち寄り、彼にも一杯飲ませたのが悪かった。金次郎は、べろべろに酔ってしまって、「こんな家には、いてくれと言われても、いてやらねえ」と言って飛び出してしまう。

翌日には、帰ってくるのだが、今度は冷酒に呑まれてしまい、再度飛び出す。そこに客がやってきたから大変。主人は、「人間のする仕事だから、自分にできないこともあるまい」と奥方に手伝わせて、鰻の料理に取り掛かるが、失敗の連続。

ある時、二人の男が集まって、一杯やりたいなと言うが、二人とも一文無し。そして、もう一人の男が、横丁に開業したばかりの鰻屋について話す。

「その鰻屋に行ったところ、酒は出てくるが、鰻は、いつまで経っても出てこないので、催促すると、鰻の丸焼きが出てきた(*注)。馬鹿にしているのかと、怒鳴ると、主人が出てきて、今日は料理方が不在なので、また月の機会にしてくださいと言う。そして酒代は、宜しゅうございますと言うので、さんざん飲んできた。要するにタダ酒よ。

今通りがかったら、どうも料理方は留守のようだから、あそこに行けば、酒にありつける。一緒に来い」と誘う。二人で鰻屋にタダ酒をせしめようと行く。主人は、料理人が不在なので、鰻の蒲焼はできないと断るのだが、彼らは、何とかして酒をせしめようとする。

主人に言って、無理やり、料理をさせようとする。だが、鰻の扱いを知らない主人は、鰻をうまく捕まえられない。そこで、二人を交えて、鰻を捕まえるために大騒動。ついに主人は鰻を追いかけて、表に出ていき、店は留守になる。

そこにお内儀が帰ってきて、「主人はどこに行きましたか」「たった今、鰻を捕まえに表に出たよ」「まあ、何ということ。おとといも、鰻を捕まえに出て、今朝帰ってきたばかりなのですよ」「全く、冗談じゃねえ。おや、向こうの横丁から出てきた出てきた。鰻をつかんで汗だくだ。おやおや、また店を通り過ぎた。一体、どこに行くんだ」「もうヘロヘロ、どこに行くか分かりません。鰻次第です」とオチ。

鰻に翻弄され、鰻で客に精を付けるどころか、客に馬鹿にされて、商売も上がったり。見通しの甘い素人商売は、鰻のタレのようには行かない。今でも、飲食業は誰でも出来そうということで、多くの人が参入して失敗を繰り返している。この落語の教訓を知っておれば、そうそう安易に飲食業はやらないはず。落語にも学べることはある。

*注

初期の蒲焼(1400年頃)は、鰻をぶつ切りにして焼いたものに練り味噌を付けて食したようだ。現在の蒲焼スタイルになったのは1700年代とのこと。

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