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2017年8月25日 (金)

谷崎の『秘密』を読む

誰にも秘密はあるかもしれない。ただ、第三者から見れば、その多くは大した意味を持たないことが多い。それでも、人は秘密を持ちたがる。それはなぜなのか。自己防衛本能が働くからであろうか。

さて、最近の高校の副読本にも選ばれているらしい谷崎潤一郎の『秘密』を読了。これも短編小説だ。隠遁している主人公の「私」は、新しい刺激を求めて、あまり行ったことのない下町のお寺に寄宿する(東京の下町の説明がしてあるが、土地勘なく、よく分からない)。

そこから古着屋で見つけた着物で女装して出かける。ところが、誰も気づかない。でも、そこから見える世界は違った。全く新しい世界だった。「私」は段々、凝っていく。そして、ある映画館に行く。席に座ると、次々席が埋まっていき、隣に、男女のペアが座った。

女は、普通の女ではない。推定するに、いわゆる玄人筋風。その女が突然、煙草を「私」に吹きかけながら、目を注ぐ。そこで、「私」は気づく。ああ、あの女だ。実は、「私」は、かつて上海旅行した時、船上で関わりのできた女だった(*注1)。

当時、女は、妙に蠱惑的な魅力のあったが、上陸後も、お互い、正体を明かさなかった。少なくとも、女の方は「私」に対して強い恋心を持っていることは分かっていたが、「私」は黙って姿を消す。今回は、それ以降、初めての再会であった。

そこで「私」は改めて、ちょっかいを出し、逢引の誘いをかけてみる。そうすると女の方は、きちんと「私」を見抜いていて、「やっと、捕まえた」と言う。更に、話に乗ってきて、馬車を向かわせるので、指定の場所で待ってと言う。以下の展開は省略する。

誰でも、秘密の時間を持ちたい時はあるかもしれない。この小説は、たまたま秘密の行動が、過去の秘事を掘り返すことになる。読んでいて、谷崎は、「女装の秘密」、「秘密の恋」に加えて、ブログてば紹介していないが、その後の展開の部分のヒントは、彼の実体験に基づくものなのだろうか。

谷崎は、秘密を小説にすることで、この女と決別したとも考えられる。でも、うろ覚えだが、確か『千夜一夜物語』にも似たような話がある。これが、谷崎の本当の「秘密」なのかもしれない。

ちなみに、小説の最終部分は次のようになっている。「私の心はだんだん「秘密」などという手ぬるい淡い快感に満足しなくなって、もっと色彩の濃い、血だらけな歓楽を求めるように傾いていった」(注2)

*注1

この作品が発表されたのは1911年。彼は、その後、1918年と1926年に上海に行っている。よって実体験に基づくものではない。

*注2

谷崎は、その後、倒錯した性を描いている。この文言は、予告の意味があるのかもしれない。もちろん、作品は、そのようなものだけではないが、過去の恋愛経験も生かして、時々、文章にして、様々な形の恋愛の揺れを楽しんだ可能性がある。

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