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2018年5月 8日 (火)

歌盗人のこと

 春雨の 降るは涙か 桜花

  散るを惜しまぬ 人しなければ

『古今集』にある、一説に大伴黒主の作と言われている一首。一応の解釈は、そのままに、「春雨が降るのは、涙なのだろうか。桜花が散るのを惜しいと思わない人は誰もいない」という意。

でも、何か事情がありそうな歌だ。例えば、人との別れ、別離の後の春雨を、桜が散ることと重ねているように思う。

さて、表題の「歌盗人」のことを取り上げてみよう。歌盗人と言われた大伴黒主のことを踏まえた話だ。昔、京都に住んでいた若い男が、両親を失い、欝々と暮らしていたが、周囲が、これでは駄目だと思い、世話をしてよき嫁を娶らせる。

これで落ち着いたと思いきや、その男は、むしろ、嫁を、いい留守番ができたと思い、出歩いて、商売もせず、二日も三日も家に帰らない。そういうことで、皆にあきれられて、見捨てられる。

そうこうするうちに、御室の花が盛りの頃、その男は、険しい道を、衣服が濡れるのも恐れず、ずんずんと行く。行き続けると、やがて、ぴかぴか光った銅金の家が見つかる。どうも官人達が居合わせるところらしい。

うろうろしていると、そこに老女が現れ、その男に、いろいろ世話をし、貴人たちが現れ、「そこに居るのは何者ぞ」と問われたら、「我は散る花を惜しんで、このように控えています」と応えるように教える。そうすると、しばらくして、そのように問われるので、老婆に教えられた通り、応えていると、「感心なことだ」と言われる。

ところが、その後ろからは女たちの笑い声が聞こえる。更に、また問われるので、同じように返答していると、「それでは、一首頼もう」と言われて、男は困惑。くずぐずしていると、「歌の詠めない者が闖入したようだ」と騒ぎたてる。

止む無く、謡曲『熊野(ゆや)』の中に、「春雨の 降るは涙か」の歌があったのを思い出し、それを詠むと、「なんということ、そなたは歌盗人。さっさと追い出せ」と言われ、男たちに打たれそうになった。

男は逃げ惑いながらも、ようやく追ってから逃げ去る。それを見て、後ろからは、どっという笑い声。そして、ようやく男が帯などを直そうとすると、銀貨が三枚が零れ落ちそうになる。さては狐に騙されたかと思い、いろいろ確認するが、ついには本物であった。

男が、たまたま思い出した和歌が、大伴黒主のものであったところから、貴人が身分の低い男をからかった。でも、代わりに、褒美を銀貨三枚取らせたという話。まだまだ、この時代は、官人にも余裕があったのかな。

*追記

出典 『折々草』

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